ー英雄たる所以、宿命のオハナシー

第3章 ”自己愛のリアム”

迷宮への挑戦に選ばれたひとり、リアムは自信の塊だった。自分には才能がある、彼はそう信じて生きてきたのだ。なぜなら、生まれたころから歩くのも喋るのも、彼は同年代で一番はやかったという。

何事も人よりできる、そんな自分をリアムは天才なのだと思っていたのだ。だからこそ彼は、そんな息子の才能に感動する様子のない両親がゆるせなかった。

どれほど同年代の仲間から抜きん出ようと、両親はただ笑うだけで息子の才能を喜ぶ様子がない。笑って、大人同士で楽しそうにしゃべって、たまにこちらを向いてはリアムの頭を撫でるだけ。

それがリアムは、どうしてもゆるせなかった。

「もっと褒めるべきだろう、素晴らしいと喜ぶべきだろう!」

両親に対する不満は、リアムが偉業を成し遂げるたびに増えていった。両親はいつまでたってもリアムの偉大な功績には無関心だったのだ。

そんなときだ、リアムが司祭から迷宮への参加者に選ばれたのは。これはチャンスだ。リアムはそう思った。今度こそ両親に、自分の息子は凄いんだ、天才なんだと分からせることができる。

リアムは意気揚々と両親に報告した。しかしふたりは一瞬驚いた顔こそすれど、すぐいつもの笑顔に戻り

「……頑張って」

とリアムの頭をやさしく撫でたのだった。

選ばれるだけでも凄いことなのに。それだけでは足りなかったのか。

「これくらいじゃダメだ! あの人たちに、凄いと認められるには……」

――迷宮に挑み、無事生還する。
これしかないと、リアムはそう思った。

迷宮に挑む朝、リアムは両親が寝ている間に家を出た。狙ってやったわけではない。いつもなら両親は起きている時間だったが、何故か今日は寝ていたのだ。

夜更かしでもしていたのだろう。両親が寝坊するほど夜眠れなかった理由など、リアムには分からなかったけれど。「息子の晴れ舞台だというのに、相変わらず呑気なことだ!」いつものリアムならそんなことにもイライラとした気持ちになっただろう。

でもそれは彼にとっては昨日までの話だった。「俺が迷宮から帰ってくれば、あの人たちの態度も俺を見る目も変わるはずだ……!」その為にも、生還しなくては。

「ほかの参加者はふたり、片方は……牧場の娘か。鍛えた体つきだったが……所詮女だ。俺の敵にならないな」

懸念はもうひとりのほうだった。英雄然としたあの姿、周りから寄せられる期待……リアムの両親ですら、あの人の話を口にしていた。

「気にくわない! あの人には……あいつだけには、絶対に負けない。俺の才能でもって、出し抜いてやる……!」

「何かの為に、彷徨いなさい。願いの為に、彷徨いなさい」

リアムは決意を込めてつぶやいた。「俺は、自分の為に。両親に、認めてもらう為に!」