ーふたりの少女のオハナシー

第1章 ”その少女はベアトリス”

 

これはとある村に暮らす、ある少女のお話――

その少女の名前はベアトリス。

親のいない彼女は、小さな頃から村の教会で暮らしていた。

でも、教会で育ったというのに、ひねくれ者のベアトリスは神様なんてまるで信じていなかった。

それは、大切な祈りの時間にも毎回抜け出しては、教会裏でひとり遊んでいたほど。

そんなある日、ベアトリスはうさぎのぬいぐるみを抱きしめたひとりの少女と出会った。

彼女の名前はピピ。

痩せすぎなベアトリスと違い、ふくふくとしたバラ色の頬の、見るからに裕福そうな家の女の子だった。

ピピは一緒に遊ぼうとベアトリスを誘った。でもベアトリスはそれを全部無視した。彼女と気が合うとはとても思えなかったから。

だけどそんなピピも、実は神様なんか信じていない子供だった。

だから、ピピがお祈りの時間を抜け出す仲間だとわかると、ベアトリスと彼女はあっという間に仲良くなっていった。

そうして、ふたりはたくさん遊んで、たくさんおしゃべりして、いつしか親友になった。

ふたりだけしか知らない内緒ごとだって、それはもうたくさんあるような、大親友に。

例えば、ピピのうさぎのぬいぐるみは親から与えられたものだったけれど、実は彼女が本当に欲しかったのは猫のぬいぐるみだったとか。ベアトリスはピピのそんな秘密も知っていた。

ピピの方も、神父やシスターの内緒のおやつをベアトリスが毎晩コッソリくすねていたことを知っていた。

それは、親も神様も知らない、ふたりだけの秘密。そうして、ふたりは村一番の仲良しになった。

でも、そんなふたりの幸せな時間は長くは続かなかった。ピピが質の悪い流行り病にかかってしまったのだ。

その病は一度かかったら治す術がないと言われていたもの。ピピを診た医者はこうなっては手の施しようがないのだと告げた。その言葉に、ピピも他の患者のようにやがて衰弱死するしかないのだとその場の全員が、肩を落とし悲嘆に暮れた。

もう、神様に祈る以外にできることはない――

誰もがそう思っていた。

みんなが彼女の安らかな死を祈る中、ベアトリスだけが諦めていなかった。村には、まことしやかに囁かれている伝承があった。

西にある森に咲く『穢れの花』から得られる『結晶』は、不治の病も治し、あらゆる願いを叶える。

その花は邪悪な魔女が穢れた魔法によって咲かせている――

そんな古い言い伝えが。

言い伝えは誰にとっても魅力的なものだ。しかし、森はとても深くて暗い。

魔女の力を恐れて村人は決して森に立ち入ることはなかった。

だが――
「ピピのためなら、たとえこの命が奪われようとどうってことない」
ベアトリスはひとり、森に向かうことを決意したのだ。

村にはその森にまつわる、こんな歌が伝わっていた――


穢れている。あの森は穢れている。
邪悪な魔力が宿る穢れた場所だ。
長居をすれば目が増える。
長居をすれば魔力が宿り穢れてしまう。
長居をしたならいずれは森に棲むだろう。

つづく。