ー英雄たる所以、宿命のオハナシー

第1章 ”彷徨いなさい。汝を知る為に。”

この国の中央。そこにはかつて荘厳な造りの大きな神殿がそびえ建っていた。
今やかつての威光もすっかり朽ち果て、崩れ落ちたその遺跡の下……今では誰も入ることはかなわないその神殿の奥に、ある迷宮があったのだという。

その迷宮がなんのために作られ、果たしていつ頃から存在していたのか、またどれほどの広大さを誇るのか、それは今も昔も誰も知らない。
そんな迷宮で、儀式は行われていた。

その儀式とは、神託により選ばれし者が迷宮に挑むというもの。
神よりもたらされる神託を神託官が授かり、全ての儀式は神殿の神官たちによって厳かに執り行われた。

そんな意義深い儀式に臨み、神に選ばれるというだけでもその者は英雄と呼ばれた。
彼らが迷宮から帰還した暁には、更なる栄誉が約束され、国の将軍や宰相なんて高い地位に就くことすらできたのだ。

なぜなら、生還者の中には過去に迷宮から帰ってこなかった者を連れ帰る傑物もいた。そんな彼らはまさに英雄と呼ばれるにふさわしいと考えられていたから。

その年も、神託によって選ばれた3人の若者が神殿に集められていた。
選ばれた若者たちを見つめ、神官が厳かな声で彼らの名を呼ぶ。

「マノン」「はい!」
「リアム」「はいっ!」
「ラフェ」「はい」

それぞれの声に頷きながら、神官は言い伝えの一節を口に彼らを送り出した。
「彷徨いなさい。汝を知るため彷徨いなさい。いずれ何者かと成るために」

そうして選ばれた3人は迷宮の中へと入っていった。
己の理想のために。それぞれが胸に抱く英雄となるために。