ーふたりの少女のオハナシー
そうして足を踏み入れた森の中、
もうひとつの『穢れの花』は拍子抜けするくらい、
あっけなく見つかった。
ベアトリスは難なく得られた結晶を手に、願った。「美味しいご飯とおやつが食べられますように……」願い終わっても、ベアトリスは森の奥から目が離せなかった。この花を見つけるまでにまだ数歩しか歩いていない。
「まだ“長居”じゃないはず……」
ベアトリスは、さらに森の奥へと進んだ。
その次の『穢れの花』も、あっけなく見つかった。ベアトリスは結晶を手にしてまた願った。「暖かい布団で……暖かい部屋で、過ごせますように……!」そうして三つ目の結晶に願ったあと、ふとベアトリスは空を見上げた。
木々に隠れて見えないが、なんだか森に入った時より明るい気がする。……もしかしたらもう太陽が真上まできているのかもしれない!ベアトリスは慌てて引き返そうとした。でも引き返そうとして……ふと立ち止まってしまった。
『穢れの花』は、今までもすぐに見つかった。
だからあとひとつだけ、最後にひとつだけ願いを叶える時間は、まだあるのでは……?
ごくりと、喉が鳴る。
握りしめた拳が、ふるふると揺れた。
やがてベアトリスは決意し、森の奥へと更に進んだ――
「ない……ない! ない!」
それからどれほどベアトリスは歩いただろう。
どれだけ足を棒にしても、どれだけ目を皿のように周りを見渡しても、花は一本もない。
そこがいったいどの辺りなのか、太陽がどこにあるかもわからない。
もう、帰り道もわからなかった。
絶望的な気持ちで歩くなかで、ベアトリスは気が付いてしまった。
――別に、帰らなくてもいいんじゃないかしら?
そもそも私には――「……帰る家なんて、ないじゃない」ああ、だったら……それなら、あの息苦しい教会で過ごすくらいなら。願いをかなえられるこの森で、ずっと—―
ふと、ベアトリスがうつむいていた顔を上げる。
道の先に、『穢れの花』が咲いていた。
一歩一歩、ベアトリスの足が、手が、花に近づいていった。
……もう、帰れなくても良い。
命を、落としても良い。それでも――
その時ベアトリスの胸にはひとつ、叶えたい願いがあった。
ベアトリスはそっと花を手に取り、静かに願った。
「ああ、どうか私の大事な友達に――」