ーふたりの少女のオハナシー

第2章 ”たとえこの命が奪われようとも”

 

ベアトリスは痩せこけた女の子だったけれど、勇気を出して森に向かっていったわ。

親友のピピのためにね。

森に入る前、彼女は村に伝わる歌を思い出していたの。『長居をしたならいずれは森に棲むだろう』

だからベアトリスはできるだけ早めに村に帰ろう、そんなふうに考えていたわ――

「教会を朝早くに飛び出してきたから、太陽が真上にくるまえに帰れば、きっと大丈夫」

しかし、いざベアトリスが森の中に入ってみれば、うっそうとしげる木に囲まれて、太陽の位置も何も分からなくなった。

それでもベアトリスは慌てず、大きく深呼吸すると長居しないための方法を冷静に考えた。「……そうだ、木を数えよう!」枝を伸ばし日差しを遮る森の木々を……

例えば100本。歩きながら1本ずつ数え、ちょうど100本目の木のところで帰ろうと彼女は思いつく。

そうして、ベアトリスは森の中を一歩一歩進んでいった。途中、数があやふやになりながらも、根気強くベアトリスは木を数えて歩いた。「42、43、よんじゅ……に、じゃない、44、45……」

そして60本ほど数えたころ、歩く先にぼんやりと妖艶な光を放つ花を見つけた。きっとこれが『穢れの花』だ!

と、ベアトリスは大喜びで花に近寄った。

しかし、花を前にして彼女はふと不安になった。「花から結晶を作るってどうしたらいいのかしら」そんな方法、歌の中にも伝承の中にも語り継がれてはいなかった。

しかし、ベアトリスのそんな不安は花を手にした瞬間に解決した。なぜなら、ベアトリスが心のままに手を動かすだけで、不思議なことに花から結晶ができたのだ。ベアトリスはさっそく願った。その結晶を手に、心からの願いを。

「どうかピピの病気を治してください! またふたりで一緒に遊びたいの!」

願いを終えたベアトリスは深く息を吐いた。これできっとピピは助かる。そして来た道を戻ろうとして、ふと彼女は気づいてしまった。

――結晶は、願いを叶える力を持つ。

「だったら、もっと花を見つけたらコソコソおやつをくすねる必要がなくなるんじゃないかしら……?」「寒い布団で寝なくてもよくなるし、ご飯もお腹いっぱいに食べられる?」ごくりと少女の喉が鳴った。「あとひとつ……いやふたつだけ」

ベアトリスは、森の奥へと足を踏み入れた。横切った木が何本だったか忘れてしまっても、まだ100本じゃない、だからまだ大丈夫……そう呟きながら。そうしてベアトリスは、怪しく誘う花を求めて森の奥へ、奥へと入っていった。